毎年就職ランキングの上位を占める総合商社。しかしここ数年、優秀な若手の外部流出が目立っているらしい…彼ら/彼女らはなぜやめるのか?どこにいくのか?調べてみた。
そもそも、転職者は増えているのか?
総合商社の入社3年目までの離職率は極めて低い水準
就職四季報(2020年度版)で開示されている「入社3年目までの離職率」は、伊藤忠商事4.7%、住友商事5.2%、三井物産5.3%。
一方、厚生労働省(新規学卒就職者の離職状況 [平成27年3月卒業者の状況))によれば、新規大卒就職者の入社3年目までの離職率は平均31.8%。
以上2つのデータから、少なくとも新卒3年間の離職率は、他の業界と比べて、現在でも極めて低い事実がわかる。
転職者が増えているとささやかれる背景
最近30歳ぐらいの離職率が商社全体で非常に上がっている
これは昨年、都内イベントで丸紅・國分社長が発した言葉である。
若手人材、特にビジネスパーソンとして一人前となり、成長機会に恵まれているはずの「30歳前後」が会社を離れていく状況に対して、総合商社の経営トップが危機感をあらわにしている。
私自身がITベンチャーで採用に携わっていた際も、この年代の総合商社若手人材の履歴書を目にする機会が多かった。
総合商社で30歳前後といえば、年収1000万円超えも珍しくない。新卒3年目まで辛抱強く下積みした彼ら/彼女らに、それ以降何が待ち受けているのか?
若手世代が転職したがる本当の理由は?
筆者の知人・友人の商社マンへのインタビューや企業口コミサイトから、3つの理由を推測した。
転職したがる理由1:専門性がつきにくい
社内に蓄積したノウハウから作られた社内制度・ルールの深い理解と、広くて浅い専門知識が求められる。ジェネラリストが活躍しやすい一方で、外で勝負できるような専門性は磨かれない。(企業口コミサイトより)
総合商社の魅力である大型案件を適正に管理するため発達した社内ルール。このルールが、本来の目的とはかけ離れたところで、仕事のための仕事や根回しを膨大に生み出し、現場の若手を苦しめている。
内向きなスキルが社外で通用するのかの疑問を抱えながら業務に追われ、専門スキルを身につけられず、ローテーションで別の部署へ異動していく。
転職したがる理由2:成長曲線の鈍化
組織構造的に”上”が詰まっている。ローテーションはあれど、チャレンジングな経験を積む機会が少なく、急激に成長が鈍化する。(総合商社勤務の知人談)
階級が上がって給料は増えても、仕事内容や役割が変わらず、学びが年々減っていく。仕事の実績が昇進に連動しきっておらず、部下をマネジメントできる責任を持ったポジション(課長クラス)に上がるまで15年以上待たなければならない。
結果、成長意欲の高い若手人材にとって、早ければ30歳前後で成長の踊り場に到達してしまう。
転職したがる理由3:ロールモデルがいない
優秀な人は多いし、尊敬できる上司・先輩もいる。しかし、彼ら/彼女らが自由にイキイキと働いているわけではない。しがらみの中で、自分らしさや能力を発揮しきれているわけではない。
つまり、憧れの対象=ロールモデルにはならず、そんな人は社内を見回してもいない。
[結論] 成長意欲の高い若手人材にとって、30歳前後は「このままでここにいていいのか?」疑念と焦燥感に駆られ、結果として転職しているのではないか。

彼ら/彼女らはどこに行くのか?
基本的に「30歳」まではポテンシャル採用枠としてある程度の企業への転職できる。専門性を持たない「30歳商社マン」のアピールポイントは次の2つ。
- 総合商社に受かるだけのスペックを持っている。
- 総合商社でビジネスの基本を学んでいる。
行き先として最も多いのは、
- 戦略系コンサルティングファーム
- 外資系投資銀行
理由はシンプルで、年収が維持でき、汎用性の高い(つぶしの利く)スキルが身につく職種であるから。つまり「やりたいことが見つかるまでのつなぎ」として選んでいるようだ。
なお、最近はスタートアップ企業への転職希望者も多く、入社数年以内の若手は、年収減を受け入れて勢いよく出ていくケースもある。その一方、30歳前後になると年収は1000万円を超え、家庭を持っている場合も多く、動くに動けない人材も多い。
ちょっと待って…転職前にとるべき行動とは?
焦って決断する前に「本当の自分はどうなりたいのか?」もう一度考えてみてほしい。
次の転職先は、総合商社という肩書、安定した収入を捨ててまで挑戦する価値があるのか?
そんなこと言ってもやってみなければわからない。であれば、全部を捨てる前に、一歩外の世界へ出て、試しに行動するのはいかがだろうか。
- 業界・企業イベント
- NPO・ボランティア
- 転職エージェントとの面談
また、今の仕事を続けながら、次のキャリアにチャレンジできるサービスも出てきている。
外の世界は沢山の機会に溢れている。リスクをとらずにいったん行動してみることをおすすめしたい。