私は、某大手IT企業で営業をしている。
大手企業に入って、分かったことがある。
それは、新卒採用時に頻繁にプレゼンされていたvisionやmissionは実際の現場では、ほぼ意識されていないというリアルだ。
「目標とのギャップを埋める施策を考えて」
「この商品を売ったら、インセンティブを配布します」
売上を追うことは当たり前だが、売上しか追わないことにモヤモヤしていた。
visionやmissionが語られることはあまりなく、売上目標を達成し、ボーナスや昇給のために働くことに居心地の悪さを感じていた。
そんなある日、ADDressの代表の佐別当さんのツイートが流れてきた。
お金の配分により社員を繋ぐのではなく、will(ビジネスにおいて、「やりたいこと」の意味で使われることが多い。) で強くつながっているという組織。
さらにフリーランスや副業のメンバーが大半を占める。
すべてが新鮮で、これからの働き方の希望がそこにあるような気がした。
今回は、ADDress代表の佐別当さんに、ADDressの組織や働き方、地域とともに生きる可能性についてお話いただいた。
佐別当 隆志
1977年大阪府生まれ。2000年ガイアックス入社。16年一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し、事務局長に就任。18年11月よりアドレス代表取締役社長。プライベートでは自宅兼シェアハウス「Miraie」を運営。
ADDressとは
日本・世界中の空き家や遊休別荘と、泊まりたい人をマッチングする、Co-Living(コリビング)サービス。会員は月4万円払えば、北は北海道の札幌、南は宮崎まで、ADDressが提供する家を泊まり放題で利用できる。
社長自身も複業社員
「僕は、ガイアックスのサラリーマンでもあるんですが…」
まず驚いたのが、佐別当さん自身もガイアックスの社員でありながら、ADDressの社長を務める、パラレルワーカーであるということだ。
「ガイアックスの上田社長に、『どちらの組織にもシナジーがあるから、別に辞めなくてもいいのでは』と言っていただき、ガイアックスの社員としての給与ももらいながら働いています」
さらに、佐別当さんだけが例外なのではなく、他の経営陣もパラレルワーカーだという。
「役員の櫻井も、前職の会社で地方創生事業を業務委託として続けています。経営陣は、働いている環境は複数ありながら、ADDressに関係のある仕事だけは残しています。
また、事実上CTOのメンバーは、5月に自分で起業されて会社を経営しつつ、僕らの開発もしてくれています」
社員の複業を認め、推進しようとしている会社は多くあるが、経営陣自ら複業を実践している会社は珍しいと思う。
パラレルワーカー集団
メンバーのほとんども、複業として業務委託の形でADDressに関わっている。
「ソーシャルメディアの運用や法人営業等、部分的に入ってもらうだけであれば、会社を辞める必要もないですし、フリーランスの方であれば、状況を見ながら比率を上げてもらうこともできるので、正社員化まではしていないです」
ここには、ADDress事業にも通ずる考えがあるそうだ。
これまで人口減少で困ってきた地方は、移住をしてもらえるよう頑張ってきた。だが、移住だとハードルが高く、うまく行かないケースが多かったという。
会社でも、A社かB社の選択であれば2択だが、A社にいながらB社もC社も関わるパラレルな働き方をすれば、リスクを取らずに多様な選択肢をとることができる。
パラレルワーカー集団の ’’働き方’’ とは、どのようなものなのだろうか。
ADDressのメンバーには地方に滞在している方も多いため、彼らとのコミュニケーションは基本オンラインだという。
「時間と場所に拘束されないのは、よく機能しています。子育て期のメンバーも多くおり、子どもの送り迎えの時間を確保したりと、生活に合わせて働けています。
一方で、難しい点は、日々の日常会話をする機会が激減してしまうことです。聞いたらすぐ分かるものも、slackに書かないといけない。テクノロジー系以外に建築系のメンバーもおり、彼らは、ITコミュニケーションに慣れていないので、ランチ会や毎月の飲み会も大切にしています。」
「僕の会社」という感じが全くしない
パラレルワーカーでリモートワークだと、管理するのがとても大変そうである。
メンバーのコミットをどのように管理しているのか伺った。
「管理はしていないですね…(笑)」
仕事を進める上で、期限やぐっと負荷をかけて障壁を乗り越える時、一体どうしているのか。
「僕らは、急激なスピードで成長していかないといけません。向き合っているのが800万軒の空き家や、少子高齢化で人口が減少していくなかで僕らの物件が増えることに期待してくれているオーナーさんや会員さんです。せっかく問題解決できるかもしれないなかで、さぼるわけにはいかないのです」
外的ないいプレッシャーがあるなかで、メンバーは常にひりひりして働いているため、もはや管理する必要がないのだ。
「大きな社会課題を解決する事業をしているだけに、僕の会社という感じが全くしないんです。世間からの注目度合いが高すぎて、当初の目標を上振れさせていっています。僕がしたいというよりは社会がそれを望んでいる期待感が強く、僕もメンバーも社会に突き動かされています」
地域に任す
「1物件当たりの収益のような労働生産性は、僕らにとってプライオリティが高くありません。それよりも重要視しているのは、町全体の生産性を高めることです。僕らの物件を提供するなかで、その地域の人やエリアの価値をどう上がるかについて考えています」
事業の中心には、ADDressではなく地域の人々がいることに、とことんこだわっている。
「その地域の人の想いや文化など、それぞれの地域には資本主義ではないルールがたくさんあるので、そういう部分を楽しんで、寄り添ってやっています。ハード、ソフト両方つくる。地域の人に管理してもらう。人を派遣して管理したらADDress中心の社会になってしまう。地域主体にしてるからこそ少数でやれるんです。」
地域の方にほとんどを任せることはリスクにも思えるが、どう対応しているのだろうか。
「もちろん一定の基準、ルールは作っていますが、できるだけ性善説で回したいと思っています。今後、もし事件等が起これば、もちろん対策はしますが、信用している人しかいれていないですし、ユーザーがユーザーにルールを教えていたりしています。地域自治ではありませんが、御上がいなくても回るようにしていきたい。」
まさに、信頼が規範になっているコミュニティなのだ。
地域の多様な利潤
地域から得られるものはたくさんある。
「委託でお支払いしているのは、数万円ほどなんです。
僕らがやりたいのは、ADDressの仕事を通じて自分のビジネスをプラスにしていく出会いを得て、そこで新しいビジネスを生み出していけるようなサポートをしていきたい。」
会社がメンバーの給与を上げにいく、お金を払う/払われるの関係性になるのではなく、彼らがADDressを通して、自分の新しい価値観や仕事が増えていくようにしていく。
これからの時代、この方が持続性があり拡大していきそうである。
その世界観は、すでに地方で見られる。
「『君、プログラミングできるらしいね。地域のメディアつくってほしくて、今日の飲み会代払うからやってよ~』みたいなことが、実際に起こっています。
本当に仕事がめちゃめちゃ面白いんです。地方へ行ったとき、地方の人が大歓迎してくれるんです。そんな仕事はあまりないと思います」
佐別当さんは、仕事について語るとき、ずっと前向きだった。
難しいところがあっても、どうすればいいかの意見をもっていて、自分のmissionに何の迷いもないように見えた。「絶対達成したい/この目で見たい」visionのために夢中になって仕事をしている。
willで働くとは、自分のつよい想いに突き動かされて働くことなのだと改めて思った。
ADDressでは、副業という関わり方はもちろん、プログラマーやCS担当、不動産業界経験者の拠点開発担当も募集しているみたいだ。
ぜひ、ご興味のある方は、公式サイトの問い合わせよりご連絡ください。
※インタビューした2019/9/25時点の情報を基に作成