大企業からスタートアップへ。そして、複業での起業。 自分の「やりたい」を貫くキャリア形成とは?

岡林輝明。慶應義塾大学文学部卒業後、新卒で株式会社キーエンスへ入社。法人向けコンサルティング営業に携わる。2015年10月にソニー系スタートアップのQrio株式会社へ転職し、2019年4月にはXTechへ再転職。現在は、クロスマート株式会社の執行役員に就きながら、寿司職人である弟とともに高級出張寿司ブランド「SUSHI+」の立ち上げにも携わる。

働き方が多様化している昨今。大企業からスタートアップへ転職や、起業を目指す人が増え、自己実現しやすい時代になってきた。

クロスマート株式会社の執行役員を務める傍ら、高級出張寿司ブランド「SUSHI+」の立ち上げにも携わる岡林さんも、それを体現するひとりである。

キーエンスからスタートアップへ転職し、自分が本当にやりたいことを仕事として実現させている。大企業への未練もなく、心から仕事が楽しいと思える毎日だという。岡林さんがどのようにキャリアの選択をしてきたのか、またその背景について伺った。

SUSHI+

経営への憧れを生んだ哲学との出会い

岡林さんが経営者に憧れを抱いたきっかけは、学生時代までさかのぼる。

「大学受験を機に、それまで苦手だと思っていた勉強を克服しました。たった1〜2年でこれほど大きく人生が変わるのかと、自分にとって大きな経験でした。考え方が変われば、成果が変わるんですよね」

当時の体験から成功哲学に興味を持ち、大学では哲学を専攻。中でも、経営者による言葉から影響を受けることが多かったという。

「経営とは、いかに生きるかという哲学そのものだと感じたんです。正しい哲学でやれば、時代に左右されない根を張れる」そうして、経営者に憧れを抱くようになった岡林さんは「将来、会社を経営する」ことを目標に定めた。

しかし、社会人スタートの舞台として選んだのは、大企業のキーエンス。

「自分は天才型ではないので、きちんと学んで力をつけたいと考えました。性格的にも慎重派です。そのため、社会に出ていきなり経営者を目指すのは、現実的に考えられませんでした。そして、サラリーマンになるからにはその環境では突き抜けたかった」

日本でトップの売り上げを誇り、強い営業が集まるキーエンス。そこで、社会人としての基礎を身に着けるのはもちろん、自分のコミュニケーション能力がどこまで通用するのかを試してみたかったという岡林さん。

スタートアップで痛感した大手とのギャップ

キーエンスでは、目標達成のために“すべきこと”が完全に仕組化されていた。いかに効率よくパフォーマンスを出すかを考え、岡林さんも定められたレールの上を全力で走り、トップセールスを記録した。

しかし、徐々に成長の鈍化を感じるようになっていった岡林さん。

「同世代がスタートアップで活躍しているのをメディアで見たり、身近な友人がベンチャーで子会社社長となって活き活きと働いている話を聞いたりするうち、そんな友人たちと会話が噛み合わなくなっていきました。仕組みを学ぶ受け身の状態には限界があり、能動的な学びが必要だと感じるようになりました」

早く自分を変えなくてはという危機感により、大企業キーエンスからソニー系ベンチャーのQrioへ転職することを決断した。

「Qrioにジョインし、いかに自分が思考停止していたかを痛感しました」

同社のメンバーは、当時6人。当時スタートアップとして走り始めたばかりのQrioでは、型化された業務など存在せず、前職でのやり方は通用しなかった。新たな環境下で、大手企業とスタートアップの大きなギャップに打ちひしがれた。

「セールスには自信があったものの、それ以外は何もできない自分に気づきました。最初の半年は思ったようなパフォーマンスが出せず、自分が何をやればいいかも分からず、新卒に戻ったような気分でした。ひたすら本を読み漁ったり、人に教えてもらったり…必死でした」

しかし、キーエンスへ戻りたいという気持ちは少しも起きなかったという岡林さん。

「要は、やったことがないからわからないだけだったんですよね。スタートアップはフェーズごとに役割が変わり、その度に未知なことに直面します。

とにかく数をこなしてPDCAまわし、これまでやってきたことを抽象化して、ノウハウへ昇華する。それを繰り返すうちに、見える景色も変わりました。事業単位ではなく、会社全体を俯瞰できるようになり、自信もつきましたね」

キャリアの『正解』は求めない。今を楽しむための二者同時選択という働き方。

Qrioで0→1フェーズの経験を積んだ岡林さん。経営者に憧れていた彼にとって、大手、スタートアップを経験した次なるステップは、いよいよ起業だった。しかし、その時点で起業してやりたいと本気で思える事業のアイデアはなく、モヤモヤと悩みが生まれたという。

「モヤモヤを募らせたのち、その原因はキャリア上の『正解』を求めていたせいだと気づいたのです。経営者を目指すならとにかく起業しなければと悩んでいましたが、やみくもに起業するのでは失敗すると思いました。思案した結果、正直に自分が今やりたいと思うことをやる、それを選択しました」

そう結論を出した岡林さんがやりたいと考えたことは、二つだった。

一つは、「世界一の寿司ブランドを創る」こと。

寿司職人である弟と共にいつかやりたいと思っていたというが、先延ばしにするのではなく「今すぐやろう」と前倒しすることに。法人を設立し、「SUSHI+」(スシプラス)というブランドを立ち上げた。

もう一つは、「XTechへジョインし、クロスマートの事業を創る」こと。

クロスマートは、FoodTech領域のスタートアップだ。

「新規事業を生み出すコンセプトに共感したのと同時に、クロスマート代表取締役である寺田さんの人柄にも惹かれ、一緒に働きたいと純粋に思いました」

そして、その二つの軸での複業を選択した岡林さん。

二つのことを同時に進めるのはそれぞれにかけられるリソースも減少してしまうため、結果を出す意味では遠回りしてしまう可能性も大いにある。それでも、岡林さんが複業を選択した理由はなんだろうか。

「確かに、一つの事業に全リソースをかけたほうが成功は早いかもしれません。それでも選ばなかった理由は、今の自分にとっていち早く成功することの優先度が低いからです。それよりもまずは、今を存分に楽しみたい。今を充実させることを優先させた方が、結果的に自分にとっての成功に近づけると思えるようになりました。それに、意外と複数のことをやっている方がシナジーが効いて、全体のパフォーマンスが良くなると感じ始めています。」

これまでは目標を達成するためにひたすらに頑張っていたが、今はやりたいことをやっているので全てが自分事として没頭でき、楽しくて仕方ないという岡林さん。成長の実感もあり、自分の理想にも近づいていると話す。

キャリアに悩むひとへ。「まずはやってみて、進みながら考える」という逆転の発想。

「今は、納得いくまでやりたいですね。当面の目標は、クロスマートを上場させることとSUSHI+を海外進出させて成功させること。たまたまですが両者とも外食産業に位置する事業なので、これらを通じて外食産業に少しでも貢献できればと思ってます。

また、僕自身が複業の恩恵を実感しているので、複業を始めたい人の力にもなれればと思ってます。具体的には複業を始めたいけど実績がなくて踏み出せない人に、SUSHI+を活用していただけたらと思ってます。ご自身のスキルを試す実践の場として活用してもらいたいです。今後SUSHI+は、みんなで創り上げるプロジェクトのようにしたいと思ってます。」

そう熱く語った岡林さん。大企業からの二度の転職を経て、たどり着いた今がある。最後に、かつての岡林さんのように、現在の仕事にモヤモヤを抱えている人たちへの言葉をいただいた。

「キャリアについては、自分の理想にベクトルが合っているといいですが、少しでもずれているとモヤモヤしてしまいますよね。以前の僕も、そうでした。

しかしモヤモヤしつくした結果、成功の定義は様々あり、自分にとって一番の成功は、楽しいと思って働けることなのだとわかりました。必ずしも最短で理想に到達することが成功ではないと思うようになりました。金銭や社会的地位の面での成功にももちろん憧れはありますが、今すぐ目指すべきものとは考えていません。それより、日々を楽しむことが重要だと感じています。

『やりたいことがあったら、まずはやってみる』、これが一番だと思います。

副業なども広まり、以前より挑戦しやすくなっているので、やらない理由はありません。進みながら考えて、本当に自分がやりたいことを探してみると良いと思います」

次のキャリアに向け、副業のようにチャレンジできるサービスも出てきている。

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いつか起業したいと思ってるが踏み出せない人、大企業に入ったもののモヤモヤしている人、本当に自分がやりたいことを見つけるために、一歩踏み出してみては?