これからの時代の豊かさとは?「人生の振れ幅を楽しむ」思考法

人生は豊かな方がいい。
一方で、『豊かな人生って、どんな人生?』と問われたら、即答できないことがわかる。

 「大企業で昇進して給料を多くもらい、お金に困らない暮らしをする人生」

これが、私にとっての豊かな人生かと言われると微妙である。
ほかの豊かさとはどんなものがあるのだろうか…。

「これからの日本での暮らしは、金銭資本だけ見ていたら正直しんどいと思うんです」

そう切り出した池田さんの今回のインタビュー。
多くの人にとって、自分の人生の豊かさを考えるきっかけになると思う。

池田 亮平
株式会社アドレス 事業開発部長 / フリーランス ライフデザイナー。 東京大学文学部在学中、NPO法人アイセック・ジャパンにて人事責任者。 2003年より株式会社リンクアンドモチベーションにてコンサルティングと経営企画業務を担当。 2008年よりソニー生命保険株式会社にてライフプランナーを約10年経験しつつ、 並行して種々のコミュニティの立ち上げや運営を行う。 2018年に独立後は、FPに加え、非金銭資本を重視したライフデザインを実践しながら提供。 2019年4月より、株式会社アドレスで事業開発部長を務める。

豊かさを「働く」と「暮らす」で探求した15年間

「前職がソニー生命保険株式会社で、ライフプランナーを10年していました。お金専門の仕事をしていると、正直、これからの日本は経済的にしんどいということをひしひし感じるようになりました。」

人口が減少していくなかでは、みんなが給料を上げていくことが難しくなっていく。そんな中でも、みんなが豊かな暮らしをしていくにはどうしたらよいのか?を考えてきたという。

「税金も社会保障料も増えて可処分所得が圧迫されるなかでは、いかに支出を減らすかを考えないといけません。ただ、単に食費や娯楽費を削りながら、カツカツな生活をするのは辛いですよね。そこで、シェアリングエコノミーの考え方が大事になってきます。何でもお金で買って所有するというスタイルから、シェアの思想にシフトすることで、支出を抑えると同時に人のつながりも作っていくことが可能です」

突然訪れた、大きなキャリアチェンジのきっかけ

シェアリングエコノミーの重要性に気づくきっかけとなった、ライフプランナーをするまでの経緯を伺った。

「新卒でリンクアンドモチベーション社に入社し、主に経営企画業務に従事していましたが、仕方なくやめることになってしまいました。2007年に親が体調を崩してしまい、もしかしたら介護かも・・・という状況になってしまったためです。人生で初めて『介護』と検索したのはその時でしたね。」

当時の職場は、介護しながら働けるほど自由度の高い環境ではなかったため、もうやめないといけないと追い込まれていた。
そして、この後の父親からの言葉がさらに池田さんを追い込むことになる。

「もう一つ打ち明けられたのが、『わが家には年金がない』ということでした。父親は昔自分の会社を経営していたのですが、国には頼らない、と年金を払っていませんでした。

当時自分は経営企画の仕事をしていたので、さすがにあわてて自分のライフプランをエクセルで計算しました。例えば両親を別居で養い、自分の将来の家族を養うためにはいくら必要なのか。 すると、当時の会社だと役員でもギリギリで…。その時点で、会社を出ようと決意しました」

(筆者注:このことがあったからこそ今の充実した人生に繋がっているため、池田さんは今ではお父様に心から感謝しているそうです!)

当時27才で、外資系の金融や起業の道も考えた結果、完全成果報酬型のライフプランナーに転職したそうだ。

とはいえ、10年間もライフプランナーを続けられていたモチベーションはなんだったのか。お金を稼げる要素だけではなさそうである。

「働く」から「暮らす」豊かさへ

「転職のきっかけは仕方なくでしたが、結果的に自分にとって大きな意味のあった10年間だったと感じています。

人生の『働く』という要素だけではなく、『暮らす』という要素にも深く触れることができたからです。今では、『働く』と『暮らす』はは密接に結びついていて、その両方を触らないと本質的な豊かさにはリーチできないのでは?と考えていますし、親友にもなかなかオープンにしないお金や病気の話を相談していただけるので、その点でもとてもやりがいを感じていました。

今の僕の座右の問いは、『これからの時代だからこその豊かさとは何か?』です。

旧パラダイムの資本主義経済が限界を迎えつつあり、日本経済もシュリンクする未来が確定しているからからこそ、お金に依存しすぎている豊かさから、次の豊かさにシフトしていけるチャンスだと思っています。自分が人生を通じてやりたいことは、社会関係資本など『お金以外の資本』をいかに取り入れた上で、ライフデザインをしていくことなんだと気づけた10年間でした」

パラレルワークという選択

「ソニー生命保険を出たあとは、『非金銭資本も組み込んだ、これからの時代だからこそのライフデザイン』をテーマに、自分で事業を立ち上げました。勉強会や、これからの時代の豊かさをテーマにした企業研修などをやっていました。そんな中で佐別当から声がかかり、ADDressにジョインしました」

そして、池田さんは次の言葉を強く言い放った。

「ただ、ADDressにジョインしたからといって、自分の生きる道が変わったわけではないんです

「豊かさを支えるものは、金銭資本と非金銭資本に大きく分けることができます。非金銭資本の中には、例えば人とのつながりといった”社会関係資本”も含まれるんですが、ADDressの良さは、社会関係資本をとても豊かにしてくれるところだと僕は考えているんですよね。単なる住居を提供するだけではなくて、人のつながりを重視している。ADDressの一つ一つの家には『家守』という存在がいて、地元とのつながりや、会員同士のつながりもサポートしてくれます。つまり、ADDressの家に滞在することで、人のつながりという社会関係資本も豊かになっていくのです。そんな社会関係資本を豊かにできる事業に片足どっぷりつかりつつ、これからの時代のライフデザインを追求することに意味を感じています。

とはいっても、直近は忙しくてなかなか自分の事業の時間がとれなくはなってはいますが(笑)ADDressと自分の事業の両輪で働くことに意味を感じています」

パラレルワーク集団で立ち上げるADDress

ADDressには社員が4人しかおらず、業務委託メンバーが多いと伺った。
働くなかで社員が多くを占める組織との違いを感じることはあるのだろうか。

「普段、社員かどうかを意識することはあまりないです。バックオフィス業務上で請求書の発行くらいですね。今も下で会議をしていますが、社員かどうかの意識はないですね。
また、大人なメンバーが多いので管理は特にせず、任せて回っています」

しかし、普段はリモートで直接の接点も少ない中で、ビジョンやミッションのような抽象度の高い会話はどのように共有され、組織の士気を保っているのだろうか。

「ミッションに関わるコミュニケーションは、日々行っているわけではありません。全員が集まる機会も月一しかないです。ただ、自分の場合は営業同行で佐別当が語っているのを聞いたりしますし、開発メンバーが各拠点に行って地元の人と議論したり、マーケティングメンバーも未来をどう伝えるかを考えたり。切り口は違えど、大元のビジョンにひもづいて、それぞれのファンクションで、ミッション・ビジョンを実感できているから成り立っているのだと思います」

パラレルワーカーの葛藤

前半のお話を伺って、ADDressは池田さんが入るべくして入った、まさに適職だと思った。

だが、池田さんからは意外な言葉が返ってきた。

「ADDressにジョインしてから1年弱になりますが、日々、けっこう葛藤もありますよ。ADDress、研修などのライフデザイナーとしての仕事、子育てもあるなかで、業務が溢れてしまう瞬間が多々あるんです。曜日や時間割でスケジュールが常に決まっているわけではないので、常に葛藤がありますね。大きな意味のレイヤーだとピッタリはまっているのですが、現実レイヤーの時間の使い方としては葛藤があります。

特にスタートアップ企業の時間と仕事量は安定せず常に流動しているので、この不確実性を受け入れる芯の強さがないとけっこう大変だと思います。

ただ、ここからの時代はいわゆる「正解」がなくなってきているので、正解がない不確実性のなかに身を置き続けれらるという強さは、本質的にますます求められていくと思います。それを思えば面白い生き方です。
不確実性に意味と価値を見出すことができれば、このキャリアの選択はよいと思っています」

これからの時代だからこその豊かさは何だろう

では、池田さんは不確実性をどう捉えているのだろうか。

「豊かさの定義はひとそれぞれでいいと思います。ただ、これからの時代はお金で買う豊かさだけにはとらわれない方がいい。
僕は、『豊かさ=振れ幅』だと思っています。縦軸にプラスマイナスをとると、人生山あり谷ありだと思うのですが、みんな上に留まっていたい、それが普通の状況です。

上にいる人は、お金がたくさん、苦労をしていない人のイメージです。
でも、下に行くからこそ見られる・感じられるものがあるのは事実ですし、あとから振り返って振れ幅が大きかったことをもって、『ああ豊かだったな』と感じられるのではないかと。振れ幅の大きさを味わうという視座に立つと、大変なことがあっても、『お、下半分がきたな』と思えます(笑)

下の状況の楽しみ方

とは言っても、下の状況を楽しむようになるのはなかなか難しい気がする。
なぜ池田さんは、楽しみや生きがいと感じられるようになったのか、もう少し掘ってみた。

「映画でも、資産何十億のお金持ちが、なにも不自由せず暮らしましたとさ、みたいなストーリーってつまらないじゃないですか。せっかく一回しかない人生で上半分しかないのは、もったいないと思っているんです。綺麗事だと思うかもしれませんが、人間は大変なことも含めて味わうために生まれてきている。

過去には、自分も右腕を粉砕骨折して収入が0円になったり、借金もMAX時は1200万円あったり、とどめは、当時の彼女と婚約破棄になったり(笑)。

そんなどん底から色々な方に救われ、ここにいます。今では、あのどん底経験があってよかったと心から思えています。お金の怖さと力を肌で感じると同時に、人生の豊かさはお金だけではないなと腹の底から感じることができました。

そこからは色々な大変なことがあっても、『ああ、下のやつきたな(笑)』と感じられるようになりましたね。

下の状況では、ADDressと副業が味方に

私の率直な不安をぶつけてみた。私のような大企業にいる身としては、下に落ちたら戻れないのではという不安があると思う。

「下半分から戻ってくるために必要なものは色々あって研修でも伝えているのですが、一つ大きいものとしては、やはり人とのつながり、社会関係資本だと思います。南房総に、自分が家族でよく行くADDress拠点があるのですが、家守の横山さんは僕の子供を自分の孫のように可愛がってくれていて、極論ですが、もし何か一大事があって東京に暮らせなくなっても、ここで農業をして暮らせばいいやとも思える安心があります。

僕は、東京生まれ東京育ちで田舎がないのですが、ADDressだと、いざとなれば自給自足も可能で生活コストの低い暮らしを実践している人との、濃い繋がりを全国にもつことができます。それは非常に心強いセーフティネットになると思います。新しい意味での「保険」とも言えるような。そういう意味でも、ADDressはすごくいいのです」

たしかに、セーフティネットだと思った。しかも暗いイメージではなく、楽しそうで、色々な人とのつながりで這い上がるきっかけにもなりそうなセーフティネットだ。
うまく使えば、不確実性に身を置いてチャレンジすることができる。

池田さんは、不確実性のなかに身を置くために、まさに副業が適していると語る。

「学びの手段としての副業はいいと思う。スキル面の幅を広げる副業が語られがちですが、スタンス面で、不確実性のなかに身を置きつつ頑張るという胆力を鍛えるのは、守られた環境ではなかなか難しいです。副業の環境で、大変なことに身をさらしながら胆力を鍛えられるのは、これからの時代に適していているのではないか思います」



編集後記

「人生の振れ幅を楽しむ」

池田さんの話を聞いて、自分だけの人生に出会ってみたいと思った。
副業なら大きなリスクなく振れ幅を味わうことができる。さらに、シェアで生活コストを下げることもできる。まさに、いろんな人生を生きる土壌が整いつつあるのだなと思った。

一般的な人生はつまらない。
いつか、振れ幅あるそれぞれの人生をADDressの家で語り合えたら最高だ。

ー終わりー
※インタビューした2019/9/25時点の情報を基に作成

筆者紹介:小出紘大